どんなきっかけでプロジェクトが始まりましたか?
甲賀さん:元々片山さんとは、立命館大学のビジネススクールがきっかけで2018年から繋がりがありました。その2年後に「ベンチャー企業で新しい仕事をしている」と連絡をもらい、近況報告のような感じで一度オフィスに訪ねました。そこで初めてCEOの堀池さんとお会いし、ビジョンや事業方針の説明を受けたほか、「京都を初めとする全国の企業が抱えている課題をどんどん解決したい」と熱く語ってもらったことを記憶しています。
そして、翌2021年の春に「京都の伝統工芸品をテーマにサブスクリプションモデルで事業を創りませんか?中小企業庁から出ている補助制度に応募しませんか?」という話をもらったことが共創の始まりでしたね。
片山:最初は「地域課題を解決できるようなプラットフォームを設けるのはどうか」というざっくりとした話をしていたんです。
そんな中、80&Companyとしては京都の色々な企業と繋がりができていくうちに個別具体の課題を拾い上げることができるようになってきていて、その中の一つに「伝統工芸、伝統産業」がありました。そして甲賀さんにそれらをテーマにした事業を提案し、プロジェクトが具体化しました。
甲賀さん:伝統工芸や伝統産業の活性化は地域課題の1つであり、普段からわたしたちも地元の新聞メディアとして取材・報道を続けている分野です。また、京都が誇るべき価値があり個人的にも関心が高いテーマでした。
サブスクリプションモデルというのは市場がすでに広がっていて競合も多い領域ですが、京都新聞グループが京都のベンチャーである80&Companyさんと提携して取り組むことはとても有意義であると感じました。
80&Companyをパートナーに選んだ理由は?
甲賀さん:新規事業の企画推進はわたしが所属する経営戦略室の主要業務の一つで、デジタル時代に合った発想で事業領域を広げていくことを考えています。長年培った京都新聞のネットワークなどを活かし、積極的に連携プロジェクトを立ち上げたい。そういう目線で話を聞き、マッチングの可能性を大いに感じました。
変化し続ける事業環境に対応するには組織の自己変革が必要で、これは創刊143年を迎える当社の大きな課題です。報道・メディア活動は中核事業でありますが、現行事業と異なる新事業を創発し、市場に出し、育てるためには自らの「殻を破る」ようなイノベーティブな実践活動が欠かせないでしょう。そこで内部の推進リーダーと外部パートナーとの掛け合わせが大切なカギだと考えています。
事業企画の発想や価値軸においては旧来の考え方やルールと一線を画しつつ、自分たちの強みであるメディア事業や地域社会の信頼をベースに、京都発の事業モデルによりサービスや商品を新展開し、新たな顧客にアプローチしてく必要がある。その点で、技術力もある80&Companyとは補完関係がうまく成立するんじゃないかと感じました。互いのネットワーク、発想力、企画力、営業力などを補い合って進めていけるんじゃないかな、とね。
また80&Companyは京都を軸足に置いて地域の課題解決に貢献するような事業創りをしている会社ですし、メディア活動を通じて地域貢献に関わってきた当社グループとの共通性があるとも感じていました。
片山:新聞の定期購読モデルは「サブスクの元祖」といっても過言ではない存在だと思います。その会社で伝統工芸品のサブスクリプションサービスという、デジタルの力で地域社会の課題解決に繋げられるような新規事業を推進していくことは、これまでの文脈と合う部分もあったかと思います。
一方、新規事業はゼロから、むしろ取り組む事業開発に伴うリスク(損失)をどれくらい許容できるか、というところからスタートするものです。ある程度許容しないといけないリスクもある中で、この事業はやる意義や将来性、予算など含めてちょうど協業いただけるラインだったのかな?と感じています。
甲賀さん:そうですね。
わたしたちのグループには「京都新聞」に関連する広告や折込ちらし、印刷、デジタルメディアをはじめ、文化・スポーツイベントや旅行、カルチャー教室、出版のほか、情報システムや不動産など、複数の事業部門があり、それぞれの社員が業務に励んでいます。
ただ、新規事業の立ち上げは従来事業の意思決定やルールで進めると難しい。だから企画推進する部門が起点となり、必要なリソースなどを検討、調整して試行し、各事業部門で自律的に新規事業が生まれるような組織作りや人材育成などの道筋をつくりたいと考えています。WABSCは、そういうことを実践できる非常に良いプロジェクトだととらえています。
立ち上げに当たりどんな課題がありましたか?
甲賀さん:事業計画を練り上げる点ですね。新規事業なので「どのような計画、サービス設計で持続性あるビジネスモデルを目指すか」を合同企画チームで議論と協議を重ねました。収益構造や予算作成など、メンバーの今までの経験が通用するわけではないので時間がかかる部分がありました。
背景としては、新型コロナウイルスの感染拡大が社会に大きな影響を及ぼす中で、どんな業種業態でもビジネスモデルの見直しが問われた時期であったことがあります。例えば、ECをはじめとし、非接触サービスの拡大やオンラインによるコミュニケーションが急増しましたし、消費者の行動も大きく変容しました。
そのような状況で、変わらずに伝統的価値がある工芸品の作り手と使い手の皆さんを、双方の課題に対応するかたちで結びつけたいと考えたわけです。「どうすればこの事業を”withコロナ”時代に対応したサービスとして位置づけられるか?」「どういうプランで、どういうチーム戦略で進めると成功の可能性があるか?」など皆で知恵を集めました。
片山:我々としても、京都新聞さんの全社戦略などとの整合性を検討することや、これまで培ってこられたアセットを活用できるかを検討、把握する必要がありました。また、数値が示された事業計画を設計していく必要があったのですが、当時僕たちは京都新聞HDさんで必要とされる予算設計や事業計画の粒度が分からなかったので、理解しようと探り探りでしたね。「この部分、もうちょっと詳細に考えてもらえる?」という要望を受けて詳細を詰めるなどのやり取りが、序盤は多かったです。
これから80&Companyに期待したいことはありますか?
甲賀さん:新規事業に挑戦する上で重要な点は「未来志向の事業戦略、事業モデル」だと思っていますので、そこの構想や連携モデルづくりでどんどん力を発揮していってもらうことですね。WABSCは戦略を適宜練り直して実践し、仮説検証のサイクルを何度も回していくフェーズに入ります。そこでチームとして大いに推進していってもらいたいと思います。
さらに言いますと、80&Companyさんのパートナー企業がもつ課題と、その企業の顧客の課題からどういう解決策を導くことができるか、という観点での貢献でしょうか。多くの地域の事業者の皆さんも感じていると思うのですが、当社も「自社のどのリソースと外部のリソースの何を使って新しい商品やサービスを創出できるだろうか」と事業アイデアごとに悩みますよね。
あと、事業戦略立案の理由やプロセスをチームメンバー全員が分かるように丁寧に共有することも大切ですね。一人のリーダーが頭の中で考えたプロセスをわかりやすく説明できていないケースがある(笑)でも、組織や業務のやり方が違うメンバー間では「それ通じてないですよ」ということも時にはあります。
チームメンバーが同じ目的に向かう上では、その作戦に至った思考プロセスも分かった方が良い。その方が、納得した上で個々のアクションプランに落とし込んでいける。これは自分が組織内で心掛けないといけないなと思っていることのひとつです。
片山:重要なことですね。意識して実践していきます。
あと、チーム内での情報交換は各所で盛んに行われているのですが、流通した情報が資産として蓄積されず、消えていってしまうことも課題として感じています。
例えば、以前この会議で話し合っていたアイデアは他のメンバーが考えている施策に効いてくるかもしれないけど、共有されずに埋もれた情報になってしまう、というケースがあり得る。情報が資産として積み重ねられ、共有されるように整えていきたいと思います。
今後WABSCをどんなサービスにしていきたいですか?
甲賀さん:伝統工芸の世界でユーザーや商品などのデータを利活用し、サービスをどんどん改善していって、職人さんや作家さんとの企画開発面での連携のほか、作り手と使い手のコミュニティー運営などにつなげていきたいですね。
根本のところはWABSCの趣旨である「伝統工芸品の裾野を広げ、お客さんに手軽にライフスタイルに取り入れてもらい、楽しみ、満足していただけるか」。それに尽きると思っています。今のところ理論立てた仮説でスタートしたフェーズなので、実践、検証してみて初めて次の段階が分かっていくかたちです。
引き続き互いの持っている力を合わせ、京都で独自性のある事業プロジェクトとして成功に向けて是非一緒に前進していきましょう。
片山:サービスがリリースされた今、我々もより一層コミットしていきます。伝統工芸品の裾野を広げるべく、一緒に頑張っていきましょう。今後ともよろしくお願いします!
対談日:2022.10.24
▼WABSC 公式サイト:https://wabsc.com/